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2019年10月29日火曜日

首を長くして友を待つ(童話)




昔々あるところにキリンさんがおりました。 キリンさんは病気で苦しんでいます。

毎日毎日咳が出て、ゴホゴホと咳をし、38。9℃の熱が今日も出ています。

それを心配したぞうくんは、キリンさんのおうちに行ってきました。

「何か、何か手助けできることはないですか」

そう聞くとキリンさんはこう答えます。 

「山の方にある穴蔵に、 アナグマくんがいます。どうかそこに行って薬をもらってきてほしい」と言いました。

ぞうくんは「分かった、分かったよ。キリンさん、絶対助けるからね!行ってくるね!」と言いながら逆方向に向かって歩き出しました。 

歩けども歩けども、一向にアナグマくんの家に近づくことはできません。

はっと気がつくと、小高い丘にたどり着き、日はとっぷりと暮れています。

街灯がありませんので、空には満天の星空。

今は夏の大三角形が沢山の星と共に見えています。

もしかするとあれがぞう座だったりするのかもしれないなあ。

そう思うとぞうさんは胸がときめきました。

いつかキリンさんとここに来てこの星空を一緒に見るんだ。

そう思ってぞうさんは 再びとことことことこと 逆方向に歩いて行きます。 

1日と20時間経って、 ぞうさんは気づきました。

「空に浮かぶ人工衛星の角度から見ると、もしかすると僕は結構方向に来ているんじゃないかしら。」

そう思って近場にいたナマケモノくんに話を聞きます。 

「あの、あの申し訳ないんだけれども、アナグマくんのお家ってどこがご存知ないですか? 」

ナマケモノくんは、1時間45分かけて言いました。

「逆方向だよ」

「そ、そうなんだ。ナマケモノくん、ありがとう」

そしてぞうさんは、逆の逆方向にとぼとぼとぼとぼと歩いて行きました。

また夜が来て、小高い丘に着いたぞうさんは満天の星空を眺めます。

はあ、なんて無駄足を踏んでしまったんだ。

1日とちょっと無駄にしてしまったじゃないか。

あの人工衛星に気がついていれば、もっと早く自分の過ちにも気がつくことができたのに。

ぞうくんは飯と自分の罪悪感を覚えながら、とことことことこと、満天の星空の下を歩いてきました。

1日と20時間また歩いて帰り、キリンさんの家の前に着いた後、そこから3時間歩いて行ったところにアナグマさんのお家があります。

「あのー、あの、アナグマさん申し訳ないんだけど、僕じゃなくてきりんさんがですねあの、薬を必要としていまして、どうか分けていただけませんか。」

ぞうさんはそう言うと、アナグマさんは言いました。

「あーもう持って行きましたよ。」

「え?」

「うんそう。あのキリンさんがね、ちょっと病気だって言うこと聞いていたから。ここから3時間歩いて行ったところなので持って行っちゃいましたよ。今頃は多分元気にしてると思います。是非言ってあげてください。ぞうくんのことをずっと待っていましたよ。

「そ、そうなんだ。ありがとうアナグマさん。」

洞穴を出て象くんはとことことことこと3時間の道を帰ります。

キリンさんの家の前まで来てトントンと戸を叩くと、キリンさんが出迎えてくれました。

「ぞうさん久しぶりだね待ってたよ。どうしたんだい君は、遅かったじゃないか。」

「あのーあのーもしかすると、心が疲れているんじゃないかと思って、君と一緒に見たい星空を探していたんだ。」

「そうなんだ僕は風邪だったんだけどね。誘ってくれたことがとっても嬉しいよ。そうだね。それじゃあ一緒に行こう。

それからふたりはとことことことこ小高い山に行って、美しい満天の星空を眺めましたとさ。 


2019年10月13日日曜日

『カメさんと影』(童話)



昔々あるところにカメさんがいました。

カメが怖いのは自分の影です。不思議ですよね、影というのは。

自分がどれだけゆっくりゆっくり歩いたところで、後ろからヒタヒタヒタヒタとついてくる。カメはそれがとても不思議でした。

自分の速さに合わせて歩いてくれるなんて、いいやつなのか、それとも自分のことを執拗に追い続ける悪いやつなのか、かめには判断できませんでした。

とことことことこ歩いて行くと、草むらで牛さんがむしゃむしゃむしゃむしゃ草を食べています。

「やあ牛さんこんにちは」
「ああ、カメ君こんにちは」
「牛さんにも影があるんだね」
「まったく、こいつはどこまでもどこまでもついてくるのさ。全く忌々しいやつだよ」
「かみさんは牛さんの言葉に考えを巡らせました。確かにどこまでもついてくる影だけれども、自分のペースについて合わせてくれるいいやつなのかもしれないな。そんなことはない、牛さんの言う通り悪いやつかもしれない」

牛さんは自分の言ったことを忘れたのか自分の影に入っている草をむしゃむしゃむしゃむしゃと食べています。

牛さんに別れを告げて、草原をさらにとことことことこ歩いて行くと扉がありました。

大きい扉を開けて中に入ると、そろばんがあります。

そろばんは地面に置いてあって、右左にパチパチパチパチ移動させると動きに合わせてそろばんも右に左に動いていきます。

そうだ、このそろばんはこまが回るから、これに乗れば影を置いてけぼりにできるんじゃないか。

そう思ってカメは、そろばんを逆にして、その上に乗って腹ばいになって、原っぱを突き進んでいきました。

するとどうでしょう。自分と影がだんだんと距離を取り、影の方は今までの彼のスピード同様にゆっくりゆっくり進んできます。

「あははどうだい、僕は影を置いてけぼりにすることができたんだ」

そうして風を切って原っぱを進みます。

しばらく気持ちよく進んでいましたが、目の前に大きな山が現れてどんとぶつかってしまい、亀は思わず頭を引っ込めてしまいました。

すると「痛いなあ痛いなあ」と山は頭を動かします。

それは山ではなくもっと大きな巨人でした。

一つの目でカメを見ています。

「なんだこいつは。ぶつかっておいて謝りもせずに、ただ自分の甲羅に隠れおって」

その一つ目の巨人は怒り狂って火と雷を交互に右に左に右に左に出してきます。

怖いなあ、怖いなあとカメは甲羅の中で思ってると、影が追いついてきました。

影はカメの甲羅の中に入ってきて、何も言わず自分のことを抱きしめてくれます。

影に体温はありませんでしたが、温かい気持ちになりました。

かめは甲羅から頭を出して謝ります。

「ごめんなさい、巨人さん。僕が悪かったよ。次からぶつからないように気をつけます。次からは気をつけるので、ここはひとつ許してくれませんか」

亀は自分の体の下にあったそろばんを巨人にあげると、巨人は目をまん丸にして喜びます。

「初めて見るものだなあ、なんだこれは面白そうだ」

そう言って一つ目の大きな巨人はどしどしと向こうの方に歩いて去っていきました。

カメは影に向かって言います。

「ごめんよ置き去りにして。僕のことを支えてくれてありがとう。次から置いてけぼりなんかにしないからね」

そうして亀と影は一匹と一影で仲良く暮らしましたとさ。

(おしまい)

2019年9月22日日曜日

(童話)うさぎは若返りの夢を見るか



昔々あるところにうさぎさんがおりました。

うさぎさんは初めて海を見に行きます。

海を見たうさぎさんは、その大きさに感動し、心が晴れやかになりました。

それから波をちゃぷちゃぷしたり、砂浜に打ち上げられたクラゲを海に戻してあげたりしました。

そして、夏の熱い日差しのなかで、熱くて体がだるいなと思ったうさぎさんは、目の前にある海を飲んでもしょっぱくて、何度飲んでも喉が潤いません。

波打ち際に一本の試験管が転がっており、中には透明な液体が入っていて、これなら飲めそうです。

「しょうがないな。飲んでみようかな。でも、怖いな、怖いな」

と思いながら、うさぎさんは試験管の水を飲み干してしまいました。

すると、うさぎさんは、自身の体が開いた感覚に襲われます。体の全面がパカッと開き、体の表面と裏面が入れ替わった感覚がありました。そこで、ようやくうさぎさんは自分の体に変化が起こったことに気づきました。

更にうさぎさんの心は興奮し、かつて獣だったときの単純明快なその日暮らしの充実だけを求める思考から、将来への漠然とした不安を抱く複雑な思考へと変化しました。

自分がどうなっているのか気になったうさぎさんは波に自分の体を映してみますが、波が白く泡立つのでよく見えません。

そこで、自分が先ほど中身を飲み干した試験管に自分の体を映してみると、どうやら体の色が肌色で目は赤く、直立歩行をしていることに気がつきました。

「どういうことだ!一体!」

そうして、低かった視線がだんだんと高くなり、やがて背骨が曲がってしまいます。

考え方も、若く柔軟姓のある思考から、凝り固まった年寄りの思考へと変わります。

「杖!杖がないぞ!杖!誰かもってこい!誰もおらんのか!」

そうして、うさぎさんは波打ち際に転がっていた木の棒を杖にすがりついてなんとか立っています。

こんなに一瞬で、年老いて背骨が固く曲がってしまうとは・・・・・・。

波打ち際で、立っているのも辛くなり、横たわり、目をつぶりました。

波の音がオルゴールに変わるとき、うさぎさんははっと目が覚めました。

次に自分がいたのは液体の中。外では多くの機械がゴウンゴウンとうごめいています。

白衣を着た、二足歩行のおじいさんが目の前に立っています。どうやら、自分の体を満たしている液体は、なみなみとそそがれていて、水圧でうまく動けません。

「やい!二足歩行!ここからだせ!ここは一体どこなんだ!出せ!恐ろしい!苦しい!」

白衣のおじいさんは、うさぎさんの目の前で笑っています。

「はっはっは。おまえこそが最後のひとピース。お前のその動物的な力が、やがてワシたちの力になるのじゃ」

おじいさんは機械のボタンを押すと、うさぎさんの周りの液体がサブンザブンと波打って動き出し、複雑な思考はやがて単純な思考へと還っていきます。真っ白な景色の中でうさぎさんは、再びオルゴールの音を聞きました。最後に見えたのは、白衣の若々しい二足歩行の男性でした。

「これで若返り成功じゃ!」

そう言って男性は去って行きました。

うさぎさんは感覚で理解します。あの、波打ち際にいた記憶。それは試験管の中で育った苦しい記憶から自分の心を守るために脳が見せた幻であることを。

うさぎさんの思考は、オルゴールが鳴る、白いところへ飲み込まれていきましたとさ。

(おしまい)

2019年9月15日日曜日

(童話)こぐまとかげ




昔々あるところに、子熊が一匹おりました。

子熊は三日月に向かって毎晩祈っておりました。

お母さんがけがをしているので、早く治って欲しいのです。

おとうさんが看病しているので狩りに行けず、食卓に並ぶ鮭の量も日に日に少なくなっています。

お母さんは、「すまないねえ、すまないねえ」と言いながら、保存したお母さんの分を分けてくれます。

子熊は「僕、平気さ。そうだ、今度、僕が狩りに行ってこようか」

というと、お父さんは「だめだぞ。危ないからまだ、一人で行っちゃ行けないよ。今度、お父さんが見本を見せてやるからな」

と言って、やんわりと断られてしまいます。

育ち盛りの子熊には晩ご飯の量が少し足りず、毎晩部屋から覗くお月様を眺めながらお腹を空かせて床につきました。

月は何も言わず、ただそこにいて、子熊の顔を照らしました。

ある晩のことです。更に少なくなった食事に耐えきれず、こっそり家を抜け出して、行っちゃだめだと言われている、森の川まで一人で来てしまいました。

怖いと思いながらも歩いていると、どこからか声がしました。

「俺は影だ。お前はお母さんのことを毎晩お月様に祈っているようだが、どうだ。お月様は全然叶えちゃくれないなぁ」

子熊は、どっきりして尻尾に力を入れて聞き返します。

「誰?どうして知ってるの?」

「そんなことはどうでも良いんだ。熱心なお前に話したいことがあってな。・・・・・・お前のお母さんは、このままだと死んでしまうだろう」

「そんな!」

「でも、助かる方法がある。・・・・・・俺と一緒に行くことだ。その代わりに、お前の母親を助けてやるよ。どちらが大事か選ばせてやろう。俺が叶えてやる。」

影は少し咳き込みました。子熊は熱い体で少し考えた後に、影の方へ歩いて行きました。

空にはお月様が冷ややかに浮かび、沢山のきらめく星が流れていきました。

影は、無言で頷くと渾身の力を込めて空へ祈りました。

するとお母さんはすっかり良くなって、次の日の朝早くから子熊のために狩りに出かけました。

しかし、お昼に帰ってきたその後の食卓からはその子熊の姿はなく、いつまでも席は空いたままになりました。

影は子熊と深いところまで、一緒に行ってしまいましたとさ。

(おしまい)