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2019年5月3日金曜日

三上パン屋のご主人の話3

「やあと僕は声をかけた。うんと彼女は答えた。そして額の汗があごに垂れるくらい
の時間が経った。彼女の頬は紅潮していた。そして、彼女の名前を知らなかった。

僕は頬が紅潮しているのは日射病だと思って、彼女に水筒を差し出した。いる?って聞いたら、彼女はいらないと答えた。そして続けて、たくさんもらったから、と言った。

僕と彼女は初対面だったし、彼女に何かしてあげた覚えもなかった。

何かあげたかな?と僕が言って。うん、と彼女は答えて。それからその手をなだらかな胸の上に置いた。僕と彼女は金網越しに見つめ合った。着ていたシャツの中に通る風が心地よかった。彼女はもっと近くに寄るように言って、僕はそれに従った。そして、網の隙間から指を出すんだ。僕はふとその指を握った。彼女は学校の敷地内にもかかわらず、私服だった。僕に服の呼び方は分からなかったが、黄色いものを着ていたよ。

そして頑張ってねと言った後に彼女は立ち去った。僕はその指に触れた手のひらのこと、手のひらの感触を長く忘れられなかった。

練習が始まって、サッカーボールが手のひらを叩く。その痛みの中にも彼女の指の指先のことを忘れることはできなかった。時間が午後7時を回り、その日の練習は終わった。

家に帰ると自分の庭の木にモンキチョウが止まっていた。僕は今日の昼間に助けたちょうちょと全く同じ色をしていた。

それからかな、学校では全然合わなかったけれど、土曜日や日曜日の練習試合、総合体育大会、外部の人たちが入れる学校行事に彼女は度々遊びに来ていた。

彼女はいつも同じ、黄色い服を着ていた。」


(次回で最後です。)