私は鮫パンの尾ひれを食べ終わりました。コーヒーはもう冷めて湯気が立たなくなっていて少しずつ参加をしているのが舌の上で分かります。
三上さんはコーヒーを一口すすります。私は聞きました。
「恋をしてたんですかその女の人に」
「たぶんそうだろうね。おそらくその最初に出会った時に」
「一目惚れというやつですか」
「面と向かって言われると恥ずかしいけど多分そうだろうね。恋は今も続いているんだから」
「えっ?もしかして・・・・・・」
「コーヒーのおかわりはいかがかしら?」
黄色いエプロンをした女性が私にコーヒーをもう一杯進めてくれました。三上多恵さんです。
「砂糖は二つでよかったよね。・・・・・・はいどうぞ喩喜ちゃん。」
「その、初恋のお相手とご結婚されたんですか!」
「初恋同士でね」
多恵さんは、才吉さんの肩に手を乗せました。なんて、うらやましいご夫婦でしょう!
「じゃあティラノサウルス買って帰ります!」
「250円です」
多恵さんは、手際よく袋に詰めてくれました。三上さんにお礼を言い、お店を出ようとして、私は気になっていたことを口にしました。
「多恵さん、もしかして、モンキチョウの化身だったりしませんか?」
彼女は少しふふっと笑って、口に指を立てながらそんなわけないじゃないと言いました。
私は店を出ました。雲が夕日と桃色に染まっている姿が素晴らしく感じました。
私は店の前の木に近寄って、匂いを嗅いでみます。ほのかな甘い香りが鼻をくすぐります。
店の中では奥さんが旦那さんの肩に手を回して、机の上を片付けているのが見えました。
なんて仲睦ましいんでしょう!
私には自分の肩を抱いてくれる人がいないことを寂しく思いながら、ティラノサウルスの頭をかじりました。