雨が降ると、近くのバス停に行きます。
なんとはなしに雨音をただ聞きたいからです。バス停に敷設されている休憩所は、いつものとおり、木造の円錐形に雨水が染みて、えも言われぬ色合いをしていました。
なんとはなしに雨音をただ聞きたいからです。バス停に敷設されている休憩所は、いつものとおり、木造の円錐形に雨水が染みて、えも言われぬ色合いをしていました。
私はその中で、クラゲが蓄光でぼんやりと照らしだされた壁に寄りかかりながら、スマホで、こんにちはとツイッターに打ち込んでいます。
すると、40歳位の男性が、右肩に肩に雫をいくつもつけてやってきました。彼はひどく疲れているように見えました。
右の頬を掻くと、大きなあくびを2回しました。
右の頬を掻くと、大きなあくびを2回しました。
「うちの会社はぼろくてな。会議室の隅には蜘蛛の巣なんかが張ってるんだよ。で、思うんだが、その蜘蛛の巣は何かを隠しているんじゃないだろうか。なんか、うちの会社、次々に人がいなくなるし、いずれ出てくるねずみについていけば、人骨の一つや二つに出くわすんじゃないかな」
それは、おそらく私に言っていることなんでしょうね。
私は、すぐさま、灰色がかったやにがひどい壁の会議室を思い浮かべました。
私は、すぐさま、灰色がかったやにがひどい壁の会議室を思い浮かべました。
ネズミのあとをついていくと、そこはいくつもの社員を消息不明にさせた、恐ろしい罠があるに違いありません。
落ちた先に尖った針のある深い落とし穴や、転がってくる大きな岩。いずれにしても大切なのは……
落ちた先に尖った針のある深い落とし穴や、転がってくる大きな岩。いずれにしても大切なのは……
「筋肉をつけておく必要があるかもしれませんね」
彼は自身のたるんだおなかを摘まんで、
「ジムでも通うか……」
と言った後、ブドウ味のガムを私に一粒くれてバスに乗っていきました。
私は彼の多忙に祈りを捧げ、脳への負担が少しでも軽くなるように懸命に手を合わせました。